時間が狂う原因・磁気について


「つい最近電池交換をしたばかりなのに時間が狂う」

「機械式時計をオーバーホールしたばかりなのにものすごく時計が進んでしまう」


私たちの店でもよく持ち込まれる修理の相談です。


内部の機械に問題が起こっている場合も当然あるのですが、

外的な要因で一時的な狂いが生じているだけのパターンもあります。

今回はその中でも特に多い、磁気の影響についてのお話です。


時計の専門的な知識が要求される話題ですが、わかりやすさを中心に

出来るだけ専門的な言葉を使わないように解説出来ればいいなぁと思います。


目次

1. 磁気はどこで入る?


2. なぜ磁気の影響が起こるのか

   2-1 電池式(クォーツ式)時計の場合

   2-2 機械式(ゼンマイ駆動)の場合


3. 磁気を帯びてしまった時の対処方法

   3-1 電池式(クォーツ式)の対処

   3-2 機械式(ゼンマイ駆動)の対処


4. まとめ



1.磁気はどこで入る?

時計は磁気の影響を受けると時間が狂ってしまいます。


そのため磁石を使った製品の近くに置くことを避けなくてはならないのですが

私たち現代人の生活において、磁力を帯びているものは

おそらく皆様の想像している以上に身の回りにたくさんあります。


中でも一番気を付けるべき、というか、我々がヒアリングしてきた中でお客さまの心当たりが一番多かったのが

スマートフォンです。

スマートフォン本体にあるマイクやスピーカー部分に磁力を使っています。

また、画像のような手帳型、ブックカバー型のスマホケースはフタ部分の開閉に磁石を利用していることが非常に多いため、特に注意が必要です。

以前接客したお客様の中に「スマホの上に時計を置いておく」という方がいましたが、磁石付きのスマホカバーだとかなり危険な置き方です。

いまや日常的に持ち歩く必需品のスマートフォンですが、こういう思わぬところで注意が必要です。


スマートウォッチも危険があります。

スマートウォッチ自体はデジタルであれば磁気の影響を受けないため

磁気着脱式のベルトを使っていることがあります。

充電器にも磁力が使われている場合があります。

「おなじ時計だから」という理由で近くに置いていると、スマートウォッチは大丈夫でも、普通の時計は磁気の影響を受けてしまう可能性があります。


ワイヤレスイヤホンも要注意です。

イヤホン自体にも磁石を使っていますが、ワイヤレスイヤホンは充電ケースに磁石を使っている場合があります。

「場合がある」というか、大体のワイヤレスイヤホンは充電ドックに磁石を仕込んでいるんじゃないかと思うくらい使われています。


財布やハンドバッグの留め金に磁石が使われている場合もあります。

マグネット式のボタンタイプは注意が必要です。

時計を付けた手でバッグの中に手を入れるとマグネットに近づくので時計が狂う可能性があります。

ワイヤレスイヤホンの充電ケースもバッグの中で時計に近づくことがあるので注意が必要です。


家の中なら

・冷蔵庫のドア

・IH式コンロ

・電子レンジ

・パソコン、テレビなどのスピーカー

こんなところにもにも磁石は使われています。


家で置いておく場所にも気を付けた方がいいかもしれません。

例えば近年人気のマグネットで壁に固定するトレーは時計を置くにはお勧めできません。


他にもいろいろありますが、キリがないのでここまで。


そして実際のところを言いますと、「どこで磁気が入ったか?」はわからない場合がほとんどです。


時計に磁気が残っているのでどこかで磁気にさらされたということはわかっても

わたしたちの身の回りに磁気を利用した製品がたくさんあるので、「どこかで磁気にさらされた」としか言いようがないパターンが多いのです。

そのため時計屋さんではお客様にヒアリングをして原因を探っていくことになります。



2 磁気帯びで何が起こるのか

時計は磁力の影響を受けやすい製品です。

ではどういう影響を受けるのか?については大きく分けて

・電池で動く時計

・ぜんまいで動く時計

この2種類があり、その原因も対処も変わります。


ここは私たちのところに来られるお客様でも混同している方が多かったので

・じゃあ内部でどういうことが起きているの?

・なぜ弱いの?

について解説していきます。

対処だけ知りたい方は読み飛ばして次の項目へ進んでくだされば。



2-1 電池式(クォーツ式)時計の場合

電池で動くモデルの場合、磁気の影響は限定的です。

本来は内部構造から説明するべきなのでしょうが、専門用語が飛び交うことになりそうなので

シチズンの解説ページのリンクだけ貼ります。

下部の方にクォーツ式の構造と解説がありますので、興味がある方はどうぞお読みください。


要点だけピックアップしますが、まとめると

・クォーツ式時計は電磁力で動いている

・電磁力なのでより強い磁力にさらされると時計の動きに影響を及ぼしてしまう

・進み、遅れ、止まりなどの症状が出る

・影響は一時的で、時間を合わせ直せばまた正常に動く

となります。


要は電池式の場合、時間が狂っても時間を合わせ直せばいい、ということです。

時計に磁気は残りますが、よっぽど強く磁化し(磁気を帯び)ていなければ

その後の動作に影響を及ぼしません。



もうちょっとつけ加えます。

・デジタル時計は磁気の影響を受けません

 アナログとは時計を動かす構造自体が違うため、磁気の影響を受けるパーツが無いからです

・アナデジ(針とデジタル両方がついている時計)は針だけ影響を受けます

デジタル部分は磁気の影響を受けませんが、アナログ針は影響を受けます

・電波時計は基準位置の合わせ直しが必要

電波時計の場合、ちょっと変わります。

電波時計は時計の中で「基準となる時刻」が設定されていまして

外部から受信した電波はこれを文字通りの基準として時刻を合わせます。

磁気の影響を受けると、その「基準となる時刻」自体がズレてしまいます。

このせいで電波を受信して時間を合わせようとしても、このズレた基準時刻に時間があってしまうため、

基準位置の合わせ直し作業が必要となります。

やり方はメーカー、モデルごとに全部違っており、かなり面倒な場合もあります。

メーカーサイトで説明書を検索するか、お近くの時計屋さんに相談してください。



2-2 機械式(ゼンマイ式)時計の場合

機械式時計、いわゆるぜんまいを巻いて動くモデルは、

歯車を駆動させるエンジンであるぜんまいとは別に

時計の動きをコントロールする「ヒゲセンマイ」と呼ばれる部品が組み込まれています


上と同じシチズンのサイトからのリンクです。


電池式と同じく要点だけざっくり説明しますと

・ヒゲゼンマイは磁石に近づけると磁化(磁力を帯びて)しまう

・磁力を帯びたヒゲゼンマイは、時計を極端に進ませたり、遅らせたりしてしまう

となります。

これが機械式時計が磁化したときに起こる影響です。

私の経験ですが、進み傾向になることが多いと思います。


そして機械式時計の場合、クォーツ時計と違い一度磁化してしまったら、磁力を抜かないと半永久的に影響を及ぼします。

近年ではシリコン素材で出来た磁化しないヒゲゼンマイというのも出てきましたが、

ハイエンドモデルへの搭載がほとんどです。


また、古いアンティークモデルは磁気の影響を受けやすいと言われています。

昔のヒゲゼンマイは今より磁化しやすい素材で出来ているためです。




3 磁気への対処方法

時計は磁気に近づけると狂ってしまいます。


じゃあどのくらい近づけたらダメなの?となりますよね。


一般的に10センチ離れていれば磁気の影響は受けないと言われています。

磁界の強さは距離に反比例して弱まっていくので

10センチも離れればよほど強い磁力でない限り大きな影響を受けなくなります。


磁気を帯びている可能性がある場合、

お持ちの時計が磁気を帯びているかどうかはかんたんな見分け方があります。

「時計を方位磁石に近づける」

これだけです。

時計が磁気を帯びている場合は方位磁石の針が動くはずです。


ただ、厳密に言うとこの方法は正しいやり方ではありません。

方位磁石はごくごく微弱な磁気にも反応してしまうためです。


電池式のアナログ時計は電磁力で動いているのでそもそも一部に磁気を帯びていたり

製造過程時の金属加工で微弱な磁気を帯びているケースがあったり

時計屋さんで磁気を抜いてもらっても100%抜けるわけではなかったりと

色々な理由があります。

なので、方位磁石での磁気確認は参考程度と考えてください。

微弱な反応自体はどんな時計でも起こる可能性があります。

本来は専用の測定器具を使って調べるものです。


また微弱な磁気であれば時計への影響はほとんど及ぼしません。

実際には磁気があるかどうかよりも「時刻の進み遅れがあるかないか」で判断した方がいいケースがほとんどです。


時刻に異常がある場合、もしくは磁気を気にされる場合は時計屋さんにお持ち込みください。

一般的な時計屋さんなら磁気を測定する器具と磁気を抜く器具を持っています。

「消磁器」という専用器具を使って磁気を抜くのですが、

個人で持つにはあまりにも用途が限定的な製品なので、時計屋さんに持ち込んだ方が早いでしょう。

だいたいの時計屋さんは持っていると思います。

消磁器を使えば時計の動作に影響が無くなるレベルまで磁気を抜くことが出来ます。


「調べてみたら私の時計も磁気帯びしているみたいだけど普通に動いてるよ?」

という方もいると思います。

磁気帯びしていても時計が正常に動いてる場合もありますので、

方位磁石の針が動いたからと言って、神経質に気にする必要はありません。

個人的には進み遅れが気にならない範囲であれば、そのままでもいいと思います。



3-1 電池式(クォーツ式)の対処

電池式の場合、時刻を合わせ直せば正常に動く場合がほとんどです。

ですので、まずは時間を合わせ直してみてください。


それでも時間が狂うようであれば

・時計が日常的に磁気にさらされている

・磁気以外の別の不具合がある(電池切れ、油切れ、歯車の不具合など)

といったことが考えられます。

オーバーホールが必要になることもありますので、お近くの時計屋さんへご相談ください。


参考までに言いますと、

クォーツ時計は1カ月で±20秒程度のズレが生じます。

時計にもよりますが、この範囲であれば正常と言っていいと思います。

この範囲から極端に離れ、1日に何分もズレる場合は何かしらの問題が出ています。



3-2 機械式(ゼンマイ駆動)の対処

ゼンマイで動く機械式時計の場合、磁気を帯びてしまったら磁気を抜く必要があります。

磁気を抜く器具を持っていないとどうしようもありませんので、お近くの時計屋さんに相談ください。


参考としまして

機械式時計は1日に±20秒程度の誤差を許容範囲とすることが多いです。

クォーツ時計と違い、1日で20秒です。

この許容範囲もメーカーやモデル、アンティークかどうかなどで差が出ますが

これを誤差範囲とするケースが多いと思います。


機械式の場合「今まで進んでいたのに磁気を抜いたら逆に遅れ出した」といったパターンもあり得ます。

磁気以外の別の不具合(油切れなど)を併発している可能性が高いため

場合によってはオーバーホールをお勧めされることもあります。

ここばかりはお客様の時計のコンディションによります。


4 まとめ

長くなりましたが、いかがでしたでしょうか?


現代では磁気を利用した製品は身の回りにあふれかえっていますので

完全に防ぐのは時計にとって難しいところです。

時計業界永年の課題でもあります。


磁気を防ぐ構造になっている耐磁時計

磁化しない素材で出来たヒゲゼンマイ

そういったものもありますので、時計を購入時に調べてみるのもいいかもしれません。


仕事の環境上どうしても磁気の影響は避けられない…というような方であれば

デジタル時計を使うことをお勧めします。


わからないことがあったらお近くの時計屋さんに伺ってみて下さい。

その時指名される店が私たちの店であればとてもうれしく思います。


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